ユーザーインタビュー

第6回 スタジオマネージャー
廣田 哲也(Tetsuya Hirota)氏

東京都内の歴史あるレコーディングスタジオ スタジオグリーンバードのマネージャー
廣田さんに今回お話を聞きます。

スタジオグリーンバードでは常時KS-Digital Referenceシリーズのデモできる環境を整えています。
基本的にはデフォルトのモニターではないものの、新しいモニターのファーストチョイスとして提供できる環境があります。

どのような経緯でKS-Digitalが選ばれたのか。



――まずはインタビューに応じていただきありがとうございます。
スタジオマネージャーとしての立場からモニタースピーカーに対し、どのような意見をお持ちなのか。前モデルのC-Coaxシリーズも試聴されたことがあるとお聞きしましたが。

廣田氏)そうですね。結構前だったと思います。新商品の情報をいただいて、いろいろなモニタースピーカーを試聴する機会があるのですが、そのなかの1つでした。

―当時のC8-Coaxの印象はいかがでしたか?



廣田氏)ちょっと記憶が曖昧なんですが…(笑)。たしかその時はあまりスピード感が感じられず、そこまで良い印象はありませんでした。

―昨年C-Referenceシリーズが発表となり、改めて試聴していただきましたね。
前モデルと比べて今回のReferenceシリーズの印象はどうでしたか?



廣田氏)同軸の特徴でもあるのですが、すごく定位がわかりやすいです。

それから中低域の繋がりが良く、変なマスキングがされていないので、中域の表現力があり、ボーカルがしっかりオケに乗っかっている、という印象でした。後はスピード感がありますね。

音の強弱がしっかりわかります。C8もC5も同じような傾向なのかと思いますが、私はC8を聴く時間が長かったので、その特徴をよく理解できました。

音が不自然に抑えられたりしていないので、強い音は強く、弱い音は弱く、とても素直に鳴っている感じです。単に音楽を普通に聴いていても楽しいし、音を作るときもコントロールしやすいと思います。


―どちらかというとC8がお好みということですね。



廣田氏)そうですね。個人的にはC8-Referenceがとても気に入っています。
C8の方が歌が良く聴こえると思いました。


―廣田さんのキャリアからすると、エンジニアも経験されていたので、いろいろなスピーカーを聴いていたと思うのですが、最近で印象に残るようなものはありましたか?


廣田氏)ジェネレックの同軸スピーカー(8351A)も印象は良かったです。

私は同軸が好きなんだと思います。自宅では古いALTECの同軸スピーカーがお気に入りで使っています。

やっぱり定位がしっかりしているので、音の隙間が良く見えるし、空間の奥と手前もすごく良くわかる。

音の動きもわかるし、曖昧さがない。音を立体的に感じられるので、単純に聴いていて気持ちいいですし、音の中に入り込める感じがします。




―商業スタジオでKS-Digitalを常備しているスタジオは少ないと思います。
スタジオマネージャーの立場として他のエンジニアさんに紹介する時は、慣れ親しんだ人から話をするのでしょうか。

廣田氏)そうですね。話しやすい方にはもちろん直接伝えますが、ホームページやSNSにも情報を載せてますので、見ていただいた人に気付いてもらえるような形を作っています。


――いままで実際に試聴のリクエストはありますか?


廣田氏)ありますよ。C5のほうが多いですけど(笑)。


―ニアフィールド感だとC5の方が人気なのでしょうか



廣田氏)単純にサイズが小さいからでしょうか?(笑)。小さい方がセッティングも楽ですし、よりニアフィールド的な聴き方が出来るのかなと思います。


―そういうときにはC5以外にもニアフィールドを置いて聴き比べしているのでしょうか?




廣田氏)10M(ヤマハNS-10M)とも比べるでしょうし、エンジニアさんが持ってきているスピーカーがあればそれと比較していると思います。


―試聴したエンジニアさんの感想とか如何ですか?



廣田氏)低域がちょっと多く出ているなという感想が多いですね。あるエンジニアさんは最近試聴した中では現場で使える可能性を一番感じたモニターだとおっしゃってましたね。

DSP臭さを感じないし、さっき私が話したようなことをおっしゃってました。



―日々、現代の音楽が変化して多様化していますが、モニタースピーカーに求められることは変化しつつあると思いますか?



廣田氏)最近の音楽は低域の量感が豊かなものが多いし、私たちが若いころ聴いていたサウンドとは明らかに違うので、そういう意味ではレンジの広いスピーカー、情報量の多いスピーカーというのは、その音楽が持っているクオリティを100%楽しむのに必要な道具なのかなと思います。



―今まで永く使われてきたスピーカーがダメだという事ではないですね。

廣田氏)そうですね。音楽の楽しみ方は人それぞれいろいろなので、スマホみたいな低域がわからないものでもいいと思う人もいるだろうし、私なんかは10M(YAMAHA NS-10M Studio)やオーラトーンみたいな低域があまり聴こえないものでも、それはそれで音楽は楽しめるかなと思います(笑)。


―レコーディングスタジオで活躍するモニタースピーカーに求められる事を具体的に教えてください。



廣田氏)スタジオでの仕事においてスピーカーに求められることは、当然のことですが、その音楽がどのようなサウンドなのかがしっかりわかるということです。

録音機材や制作環境が変化して、出来上がる音楽も多種多様でサウンドもさまざまですが、その違いがしっかりわからないといけません。

何を聴いてもよくわからないという状況は、僕らのようなスタジオでは絶対に避けたい状況です。




スタジオにおけるスピーカーというのはしっかり音を判断してコントロールするための道具であり、そのための情報をしっかり伝えてくれるのが良いスピーカーだと思います。

しっかり道具を使いこなして、どんな環境でも楽しめる音楽を作ることが僕たちの仕事です。



―未だレコーディングスタジオでYAMAHA NS-10Mが活躍しているのにも意味はありますね。



廣田氏)やはり10Mに慣れている方は多いですからね。確かに現代のスピーカーに比べると低域があまり鳴らないですが、ちゃんと使いこなしていれば低域をコントロールすることはできます。

10Mを使ってたくさん仕事をして耳が鍛えられていれば、鳴っていない低域が聴こえるようになるというか、感じられるようになると思います。


―なるほどです。


廣田氏)まあ要するに、現代のスピーカーが無ければ仕事ができないとか10Mが無ければ仕事ができないというわけではなく、使いこなせる道具を揃えるということが大事ですね。



―10Mのようなトラディショナルなスピーカーと比べて現代のスピーカーの良さとは。


廣田氏)情報量ですかね。特に低域の。プロのエンジニアの仕事はいかに短い時間で良いミックスを作るのが鍵なので、正しい情報を得ることが大切になってきます。

情報が多すぎても良くないですが、適切な情報があったほうが、仮にそのスピーカーに慣れていなくても早く順応できるかもしれませんね。今はそういったスピーカーが数多く揃っているんじゃないでしょうか。



―今はいろんな選択肢があっていい時代ですね。



廣田氏)そうですね。選択肢が多くある環境なので、いろいろ試してみて、使いこなせる道具を見つければ良いと思います。昔はこれほど多くはなかったので。情報もありますし、すごく良い環境だと思います。



―とはいえモニタースピーカーに対する考え方はベーシックな部分は変わらないでしょうか。
今までスタジオで培ってきたことはどんなことがありますか?
大事にしていきたい事などあれな教えてください。


廣田氏)私はマネージャーという立場になってから、スタジオ音響についていろいろなことを学びました。私にとっての音響調整の師匠みたいな方がいまして。いろいろ教えていただきながら試行錯誤して、たくさんの時間、音を聴きました。

まず大切なことは、スピーカーのチューニングはもちろん、スピーカー周りの環境、部屋の形、反射と吸音など、いろいろな条件でどう音が変化するのかをしっかり理解すること。

そしてその変化をスタジオ環境にどう活かしていくのかを考えること。そんなことを何年もかけて繰り返して、ようやく自分の中になにか基準のようなものが出来上がった気がしています。

そうなると今度はいろんな方の意見や要望に応えていくにはどうすれば良いかということが、具体的な方法論としてわかってきます。

私たちのような商業スタジオにはいろんな方々がいらっしゃいますのでそのような経験と方法論を得られたのはとても大事なことだと思っています。


―いろいろなチャレンジができるのもきちんと調整されたスタジオの環境がそこにあるからですね。



廣田氏)そうですね、しっかり判断できるスタジオ環境があるので、それが大きいですよね。

―スピーカーは世の中でたくさんあるけれど、まず部屋がちゃんと鳴っているか、部屋のことを理解しなければいけないですね。


廣田氏)そうですね。良い部屋であれば良い判断ができるはずです。そうすると、いろいろトライする中で、こうすればこうなる、というノウハウや仕事耳ができてくる。

それを音楽に反映させることが出来るようになってくると、ミュージシャンやクライアントと技術的にコミュニケーションが取れるようになってくるのではないでしょうか。




―納得のいく結果を得られているということは長い時間をかけて調整して、理想を追い求めてここまで来ているということですね。



廣田氏)そうですね。まあ、このスタジオを利用した全員が「この部屋素晴らしいね。」とは言ってくれないんですが(笑)、自分の中では、格段に良くなったと自信を持っています。

部屋が良ければどんな機材を持ち込んでも恐らく大丈夫。そういうのが私の理想です。


―スタジオで様々なシーンでマイクを選べる様にスピーカーにも選択肢があるという事はメリットだと思いますが如何ですか。



廣田氏)そうですね。いろいろ選べることはいいことだと思います。



―その選択肢の中にあるKS Digitalに違和感など無いですか?



廣田氏)ないですよ!KS digital Referenceシリーズは個人的にお客様に勧めても、私は疑われないだろうと思っています。これはスタジオマネージャーとしては信用問題なので。

C5,C8に関してはそういう心配は全くなくて、逆にこれ全然だめだね、という人がいたら私が疑っちゃうくらいかも(笑)。

こんなに定位がよくわかって、音の強弱がわかって、中域もしっかりあって、上も下もしっかり出ていて、空間表現もできて、他に何が必要ですか?って思います。変な癖もないですし、私としては自信を持ってお薦めできますね。


―特にモニタースピーカーは意思を伝えられるものではありますね。


廣田氏)そうですね。そのスタジオ、そのエンジニアなりが表現したいことを、しっかりと伝えられる道具であるべきだと思います。


―スタジオマネージャーの立場としての明確な信念をお聞きできたのは非常に貴重です。
本日はお忙しい中ご対応いただきありがとうございました。


第7回目は9月15日に更新予定
クラシック専門レーベル
アールアンフィニ・レーベル代表
プロデューサー/エンジニア
武藤 敏樹(ムトウ トシキ)氏 
http://www.110107.com/s/oto/page/art_infini?ima=4331

クラシック録音現場で活躍するエンジニアの立場から見たモニタースピーカーの現状を語っていただきます。



<プロフィール>
廣田哲也(ヒロタ テツヤ)氏
スタジオ・マネージャー
1967年生まれ

数多くのヒットを生み出す歴史あるスタジオ。著名なアーティスト、エンジニアから支持されているスタジオマネージャーに就任後、
伝統を引き継いでいます。

(スタジオグリーンバードは2020年3月に営業を終了しております。)